日曜待つよの掌編小説

ロボット兵士

ロボット兵士

 

「博士、ロボット兵士の開発具合はいかがですか?」
 ある日のこと。A国の国防大臣は、ロボット兵士の研究開発を進める博士の研究室を訪れた。
「これは国防大臣殿。ロボットの開発は順調です。間もなく最後の試験運転を終え、完成することでしょう」
 博士の返答に大臣は満足げに頷いている。
「B国との戦いは日増しに激しくなるばかりだ。ロボット兵士が完成すれば、我が国の戦死者も格段に減少するに違いない」
 A国は隣国であるB国との領土問題から、半年前より戦争状態にあった。
 長引く戦闘により、A国では多くの兵士たちが命を落としている。
 何か打開策を打たなくてはならないと考えていた大臣の耳に、軍事ロボットを研究している博士の話が入ってきた。
 これだ、とひらめいた大臣はすぐさま博士に連絡を取り、ロボット兵士の開発を依頼したのである。
「大臣、これからロボットの戦闘実験を行います。ご覧になられますか?」
「もちろんだ。この目でロボットの性能を確かめたい」
「それでは、実験場へどうぞ」
 博士は数人の研究者とともに大臣を屋外実験場に案内した。
 研究所に併設された実験場は周囲を人工林に囲まれた荒れ地になっており、所々に小さな射撃目標が設置されている。
「実験を始めてくれ」
 博士が助手にロボットの起動を指示すると、実験場の片隅に二足歩行ロボットが現れた。

「あれがロボット兵士かね」
「はい、大臣。ロボットの姿形は人間のそれと同じものになっています」
「ほう」
「ロボットの歩行速度は自由に変えられます。人間よりも速く走ることができますので軍隊の作戦にも参加できます」
 博士の説明に合わせるようにロボット兵士は歩調を徐々に早めていき、荒れ地の中を自在に走り回っている。
「これはすごい。これならばどんな過酷な戦場でも力を発揮できるだろう」
「またロボットの両腕には強力な火器を内蔵しました。あらゆる敵、障害物を破壊できることでしょう」
「うん、うん」
 大臣が熟視する先でロボットは片ひざを折り、右腕の重火器を構えた。
「射撃開始」
 博士の掛け声と同時に実験場は轟音に包まれる。一瞬の内にロボットの姿は砂ぼこりに消えてしまった。
「素晴らしい」
 砂煙の中にロボット兵士を認めると、大臣は称賛の拍手を送った。ロボットの射撃は、はるか先の破壊目標を見事に命中させている。
「大臣、ロボットの評価はいかがでしょう」
「期待通りの性能だよ」
「ありがとうございます」

 国防大臣から満点の回答を得たロボット兵士はすぐさま五十体が生産され、それぞれが熾烈を極める前線各地へ配備されることとなった。

 

 ロボット兵士が戦場に送り込まれてからおよそ三か月。
 博士のもとにロボット兵士の戦果が報告された。いずれのロボットも順調に稼働しているらしい。
「ロボットは活躍しているのに、これはどうしたことだろう?」
 戦果報告書に同封されていた資料に目を通していた博士は眉を曇らせた。
 資料にはロボット兵士が参加した戦闘におけるA国の死傷者数が記載されている。
 高性能なロボットが投入されているにもかかわらず、戦線の死傷者は全く以て減少していない。
「これではロボットを開発した意味がない」
 博士は報告書の委細を問うべく、国防大臣のもとへ足を運んだ。
「大臣、ロボット兵士の報告書でお尋ねしたいことがあります」
「これは博士、血相を変えてどうされました。まずは落ち着いてください」
 大臣の事務室に通された博士は、ソファを勧める大臣に早足で詰め寄った。
「ロボットを送り出したというのに、なぜ戦地の負傷者が一向に減らないのですか。軍隊は我々の開発したロボットを有効活用できていないのでは?」
「博士、博士、どうか冷静に。どうにも事情があるのです」
 と、大臣は深い溜息とともにソファに腰を沈めた。
「博士、実際ロボット兵士は有能です。あらゆる戦場でB国兵士と勇敢に戦っています。もはやロボット無しに我が国の勝利はあり得ないでしょう」
「ええ」

「その優秀なロボットを壊されないよう、戦地では一体のロボットにつき二十人体制で周囲を警護しながら戦っているのです」
 大臣はゆっくりと首を垂れた。
「きっと戦争は我々の勝利で終わるでしょう。今までにロボットは一体たりとも破壊されていませんから。警護の兵士は大勢戦死しましたがね……」

 

                   


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